マーケティング・リサーチ関係の論文をちまちま読む、という主旨のこのブログでありますが、例によって日本マーケティング・リサーチ協会「マーケティング・リサーチャー」の連載コラムをご紹介させていただきたいと思います。
えーと、こちらは下書き原稿ですので、もしご関心をお持ち下さった方がいらっしゃいましたら、ぜひ本誌をお手にとって頂ければと思いますです。
今回は、身体化認知と呼ばれる研究群についての紹介です。今日や明日の仕事に役に立つ話じゃないかもしれませんが、気楽にお目通し頂ければと思います。
オランダ・フローニンゲン大学のJ. リウたちは,死に関連する情報への接触がその後の消費者のブランド選択に影響する,と主張しています。彼女たちによれば,人々は死について考えると,知らず知らずのうちに自国のブランドを選びやすくなるのです。
近年では,多くの企業が顧客満足の向上に力を注いでいます。しかし,顧客満足が向上すれば売上・利益が伸びるとは限らないことも,広く知られている事実です。たとえば,満足度調査では「とても満足している」と答えている顧客が,なぜか競合他社に乗り換えてしまったりするのです。顧客満足などあてにならない,と考えるべきなのでしょうか? 豪ニュー・サウス・ウェールズ大のM.チャンドラセカランたちは,そうではない,と答えます。彼らによれば,顧客満足の高さだけではなく,その評価の確実さが重要なのです。
マーケティング・リサーチでは,質問紙をつかった調査が大きな役割を果たしています。質問紙調査のひとつの問題点は,回答者が自分の本当の態度や行動に基づいて回答せず,自分を良くみせるように回答を歪めてしまうのではないか,という点です。この現象は「社会的に望ましい回答」(SDR)と呼ばれています。SDRは質問紙調査の本質的な特徴であり,決め手となる対策はなかなかないのですが,対処の手がかりとして,SDR傾向の個人差,つまり自分を良く見せるような回答をする傾向の個人差に注目するアプローチがあります。ノースカロライナ大チャペルヒル校のJ.E.M.スティーンカンプたちは,マーケティング分野でのSDR傾向の研究を概観し,SDRへの対処のガイドラインを提案しています。
マーケティング・リサーチの重要な課題のひとつは,製品に対する消費者の好みを定量的に捉えることです。ここで問題になるのは,たとえひとりの消費者に注目したとしても,その好みは一種類ではなく,状況によって変動することがある,という点です。ニューヨーク市立大のジャック・リーたちは,消費者の複数の好みを定量的に表現する方法として「多重理想点モデル」を提案しています。この方法を用いると,個々の消費者の購買履歴データだけを用いて,その消費者の複数の好みを定量的に表すことができます。
店員さんの上手なお世辞はお客を喜ばせ,財布の紐を緩くします。では,見え透いたお世辞はどうでしょうか? かえって逆効果だ,と思うのがふつうだと思います。香港科学技術大のエレイン・チャンたちはこの常識に異議を唱えています。二重態度モデルと呼ばれる考え方に基づけば,いかにミエミエのお世辞でも効き目があるはずだ,その効き目は時間が経つと強くなるはずだ,というのです。
近年では厳しい競争を勝ち抜くために,多くの企業が顧客満足の向上に力を注いでいます。では,国中の企業の顧客満足がみんな高くなったら,いったい何が起こるのでしょうか。自社も競合他社も顧客満足が高くなるのですから,結局はなにも変わらないのでしょうか? ミシガン大学のクレス・フォーネルたちは,アメリカ中の企業の顧客満足が全体的に高くなると,米国民の消費支出の合計が増える,と考えています。アメリカのGDPの7割以上は個人消費であることを考えれば,顧客満足の全体的向上は経済成長につながる,といってもよさそうです。
おばちゃんたちが世間話をしていました。共通の知人であるナントカさんについての噂話です。「あの人ちょっとねー,自分の意見を無理やり通すところあるでしょう?」「そうそう。私もそう思ってたのよー」「でもあの人,まわりの意見に流されちゃうこと多いのよー」「そうそう,そういうところあるわよねー」...どっちなんだ!
調査対象者に「人生において最も大事なのはお金だ」という文を示し,同意できる程度を聴取しました。その結果,「非常に同意できる」にマルをつけた人の割合は日本人よりもアメリカ人で大きい,という結果が得られました。さて,この結果は,アメリカ人のほうが拝金主義的だということをあらわしているのでしょうか? それとも,アメリカ人はどんな質問文に対しても「非常に同意できる」と答えやすいイエスマンたちだ,ということに過ぎないのでしょうか?...これが「回答スタイル」の問題です。オランダ・エラスムス大学のファン・ロスマーレンたちは,評定データにおける回答スタイルの影響を統計的に取り除き,対象者の態度だけを取り出す手法を提案しています。
企業がブランド拡張に失敗したとき,親ブランドはどのくらい傷を負うのでしょうか? シンガポール・南洋理工大学のシャロン・イングは,ブランド拡張の失敗が親ブランドを傷つける程度は文化によって異なると主張し,興味深い実験をおこなっています。
米エモリー大のライアン・ハミルトンたちは,売り場の品揃えに高級品を追加したり廉価品を追加したりしたとき,消費者がそのお店に対して持つイメージがどう変わるかを,実験によって調べています。彼らが注目したのは,「あのお店は値段が高そうね」といった,小売店の価格イメージの変化です。